2010年11月16日

女の覚悟

今の肚をすえるまでには、さんざん生死の問題に苦悩したり、日常の修養だの、さむらいとしての鍛錬だのを積んで来て、やっとこの覚悟になり得るまでになって来たと思うのである。--だのに、女は、そういう鍛錬も苦悩も経ずに、いきなりなんらの惑いもなく、

(--わたくしも生きていないつもりです)

と、すずやかにいう。・・・どんな覚悟のよい侍でも及ばないほどの静かな眸で死を見ているのである。

吉川英治『宮本武蔵』(4)
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