2010年10月7日

ナルシスト的陶酔

私の若いころも、私をふくめて青年というのは、いい意味をも含めていかがわしい面をもっていた。私のその頃、私の仲間の多くはアジアの僻地で生涯を送るといっている連中だったが、私もふくめて、その決断に陶酔するいやらしさを持っていたし、そのことを語りあうときはナルシストが互いの皮膚を撫であうような無気味さがあったし、そういう陶酔や皮膚の相互摩擦がなければ、とうていその決心が保ってゆかないほどに、内実はかぼそいものだった。

司馬遼太郎 「街道をゆく」