日本の沿岸漁労民というのは、古代ではべつに近代国家のような「国籍」などはなく(あたりまえだが)中国、朝鮮、日本などの東南アジアの沿岸地方一帯において、漁労という技術や暮らしを通じての一ッ文化をもっていたのではないかと私は想像している。
当然、古代から日本の沿岸ーー九州、瀬戸内海地方、伊勢湾といったようなーーで活動していたが、これら海洋民族は、内陸で弥生式稲作技術によりつつ、めしをくっていた稲作農民から、「安曇」族とよばれていた、という想像は、ほぼ異論がないであろう。
司馬遼太郎 「街道をゆく」