インドの場合は、また事情が違います。たしかに聖典は存在しますが、口承で伝わっていることのほうがずっと強い威信を帯びつづけています。口承で伝わったことのほうが、今日でも、より信頼性が高いとみなされているんです。なぜでしょうか。古代の歌や詩はグループで詠唱されるものだったんです。グループで詠唱する場合、誰かが間違えても、他のメンバーがいますから、間違いを指摘してやることができます。したがって、線年近く続いてきた口承で伝わった偉大な叙事詩は、写字室で僧侶たちが手書きで古文書から書き写した西欧の聖典より正確なのです。手で書き写す場合、前任者の書き間違いはそのまま引き継がれますし、書き写されるたびに、新しい間違いも加わっていったでしょうからね。
ジャン=クロード・カリエール「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」