2010年10月21日

記号消費

 記号消費とはもともと、ジャン・ボードリヤールというフランスの哲学者が一九七〇年に言いはじめたことで、商品が本来持っている機能的価値とは別に、現在の消費社会ではその社会的な付加価値の方が重要視されるようになっているということです。
 たとえばクルマは人を運ぶための移動の道具ですが、メルセデス・ベンツなどの高給輸入車には「高い外車に乗っているセレブ」というような社会的意味が加えられています。ベンツを買う人の多くは、クルマとしてのベンツを買い求めているのではなく、社会的ステータスとしてのベンツを求めている。これが記号消費です。

 こういう記号消費は、日本社会が物質的に豊かになった一九八〇年代には頂点に達して、「モノ語り」などという現象まで言われるようになりました。これはバブル全盛期の一九九〇年、精神科医の大平健さんが『豊かさの精神病理』(岩波新書)という本で提示した言葉です。
 モノ語りとは何かと言えば、人間関係や自分のイメージ、他者のイメージ、あるいは自分の将来像など、ありとあらゆることをモノ(商品)に仮託して語ってしまうような人のことです。

佐々木俊尚 「電子書籍の衝撃~本はいかに崩壊し、いかに復活するか~」
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