2010年10月5日

白州正子 「両性具有の美」

院政時代から南北朝を経て室町時代に至る間が稚児の全盛期であった。

肉体関係のあるなしに拘わらず、当時は主人と稚児の間には、師弟の契りともいうべきものが厳然と存在し、学問や行儀作法はもちろんのこと、和歌、音楽その他の芸能一般に至るまで、大人に成長するための教育がほどこされていた。

折口信夫の弟子が書いた思い出話を読んだことがある。・・・ある晩、彼が寝ているところへ先生が入って来て、挑んだ。お弟子さんにはまったくそちらのほうの趣味はなかったので、最後まで抵抗すると、先生は悲しそうにいわれた。
「お前は優秀な弟子なのに、わたしのいうことを聞かないと、わたしのほんとうの思想は伝わらない。伝統とはそういうものなんだよ」と。

究極のところ、伝統というものは肉体的な形においてしか伝わらない。でなければ、「血脈」というような言葉が生まれた筈もない。

たまたま折口さんはホモだったために直接行動に出るしかなかったのであろうが、それはそれとして伝統についていわれたことは真実である。魂と魂が歩みよって、触れ合った瞬間、人は感電したようなショックを受ける。先生はそういうことを身をもって示したかったので、私にはその切なさがよくわかるような気がする。