2010年10月3日

波照間へはどのようにして行けばよいか、つまりは船はどこから出て、週に何便あるのか、といった意味のことをきいてみた。
すると、彼女は急に眠ったような埴輪みたいな表情に化(な)って、「それはね」と勿体をつけ、
「ハテルマ、ハテルマと言うてゆうのよう」
と、いった。何度繰りかえし質ねても、その呪文のようなことをいうのみで、質問者としてはらちが明かなかったが、しかし一面、古代のなかにいるようで、神韻縹渺とした世に漂うような気分になった。ハテルマ、ハテルマととなえているうちに言霊(ことだま)の力でハテルマへゆけるというのであろうか。

司馬遼太郎