2012年12月22日

沖縄のアダムとイブ伝説

 伊波 普猷(いは ふゆう)が近所の老婆から聞いたという沖縄本島の属島である古宇利島の例を見よう。
 昔はじめて男の子と女の子とがその島に出現したが、二人は裸体でも恥じる心を知らず、毎日天から降ってくる餅を食べて無邪気に暮らしていた。餅の食べ残しを貯えるという分別が出てくると、いつしか餅の供給はとまってしまった。二人は食うために働かねばならず、朝夕、海浜で貝を漁って命をつないだ。あるいは海馬(ジュゴン)が交尾するのを見て、男女の道を知った。そこでようやく裸体を恥ずかしいと思うようになり、クバの葉で恥部をかくした。沖縄三十六島の住民はこの二人の子孫である。

谷川健一「わたしの『天地始之事』」146